牛乳神話、断乳神話

- つくられた常識・誤った認識 -

 「牛乳神話」という言葉、耳にしたことがありますか?「断乳神話」というのは私の造語なのですが…。生まれたばかりの赤ちゃんを自分の母乳で育てたいーー哺乳類として当然のそんな思いを抱く母親の前に、デンとはだかるのがこの2つの「神話」なのです。

 ヒトの子どもをヒトの乳で育てることは、動物として当たり前のことなのに(稀に母乳の出ない体質の方もいますが)、ほとんどの産院では、母乳を出す努力を促す前に粉乳を与えようとする。そして、飲みやすい哺乳ビンに慣らされた赤ちゃんは、放っておくとそのまま粉ミルクっ子になってしまいます。

 保健所の指導も同じです。食生活の改善や乳房手技などで、質のよい母乳を出して赤ちゃんに飲ませるよう努力すれば、母乳100%で育てられるのです(当然のことです。ヒトの赤ん坊は、物が食べられるようになるまではヒトの乳で育つことになっているのですから)。

 にもかかわらず、簡単に人工粉乳を足したり、母乳から粉乳に切替えたりするよう指導してきます。 また、生後4ヶ月にもなると、「味覚の育成」とか「練習」などと称して、赤ちゃんには消化も吸収も難しい果汁の摂取を勧めます。その前に「3ヶ月過ぎたら、夜間の授乳はもうやめましょう」などと、24時間コンスタントに働き続けてこそ保たれる乳房のバランスを崩させ、結果として母乳育児の継続を妨げる保健婦さんがほとんどのようです。

 果汁に慣れたら、今度は「ゴックン期」だ「モグモグ」だ…と、ひとからげにはできない赤ちゃんの成長を月齢だけで区切り、食事優先で母乳は二の次、果ては「6ヶ月を過ぎた母乳は栄養がない」などという事実無根の言葉で、赤ちゃんと母親から、2者間の絆であるオッパイを取り上げてしまうのです。

 今や、私たち母親側が相応の知識を持って身構えていかないと、「母乳で子どもを育てる」というごく自然な行為すらできない世の中になっているというのは、驚きに値します。もちろん、なかには頑張って母乳育児を続けている母親たちもいます。また京都のあゆみ助産院のように、近隣の大学に依頼し、生後6ヶ月を過ぎてからでも、母乳にはそれ以前と変わらない栄養素が含まれていることをデータとして示しながら、そうした母親たちを支えてくれるところもあります。

 私自身は、当然のように誕生当日から、息子には母乳を与え続けてきました。現在3歳と2ヶ月になりますが、母乳7:食事3程度の割合で飲食しています。「母乳以外の食物は、月齢や体重ではなく歯が生えてから(歯が生えだすと、胃にふくらみがでてきて機能を始める)」「できれば2歳半までは、母乳中心に少しの穀物程度にした方が、子どもの胃腸が丈夫になる」ということを信じて実践。結局、3歳の誕生日前後に、やっとごはんをお箸で5〜10口も食べることができるようになった程度で、それまでは気の向くままに、食事というよりは「つまみ食い」。残りの栄養はすべて母乳でまかなっていました。  

 10月のある日、近くのスーパーで「骨量測定」のイベントがあり、母と2人で出かけてきました。ちょうど1年前になりますが、以前お世話になった助産婦さんから、「2年も母乳育児していたら、骨はスカスカ、70代並みになっていると思う。知らなかったらショックだろうから、知った上で続けた方がいい」とのアドバイスを受けました。

 私の食事は、玄米や全粒穀物を中心に、海藻、野菜、豆などを少し。牛乳も卵も、肉や魚の動物性食品も滅多に食べません。体調はすこぶる良いし、息子はこの母の乳だけ(当時母乳が9割程度)で、すくすくと育っており、スリムながら骨太の体型だと安心していましたが、とりあえずは立場上、正確なデータ測定が必要だなと感じておりました。

 ようやく1年して、その機会が訪れたわけです。行ってみると、それは当然ながら、乳業メーカーの販促イベントでした。牛乳を断って久しい自分たち母娘の骨量が、どの程度のものか…、興味深々で臨みました。測定は、肘を所定の位置につき、手首のくるぶし状の骨を数回叩いて、振動が伝わる速度を測るという超音波方式で行われたようでした。

 「おかしいな〜」という顔つきで何度も測定し直し、ようやく出力された結果は隣の係員さんに。「まず、平均を見てみましょう」と、20代、30代…と年代ごとに分けられた表を見ると、30代が骨量のピークであり、私はちょうどそのピークの平均値と同じでした。 「平均なら、安心。でもたいしたこともないということかしら?」と問うと、「いいえ、これはすごい数字です。みんなボロボロなんです。普通はこの半分ぐらいですよ」と言うのです。(じゃあ、これは平均ではなくて、理想の数字ということ?)  続けて送られてきた母のデータに至っては、65歳でありながら、20代〜40代の数値でした。「どうぞ、お帰りください」と冗談めいて平伏する係員さん。母のほうも何度もやり直しされたそうですから、2人の数値が、少なくとも我々以前の順番の人たちに比べて格段に高かったのではないかと推察されます。

  「こちらのお店は、健康に関心が高いお客様が多いんでしょう」「それでも油断せずに、この新発売の『カルシウム強化牛乳』を毎日飲んでくださいね」とサンプル品を手渡され、「私たちはカルシウムを損なわないように、牛乳を何年も飲んでいないんです」とは言うことができないまま帰ってきました。

 「牛乳を飲むと、却ってカルシウムが失われる」とは、にわかには信じられないことでしょう。それだけ「牛乳はカルシウム強化によい」「からだによい」という「神話」がまかり通っているのです。また、「母乳育児を長く続けると骨がやられる」ということも、やはり「神話」であったことを、今回身を持って証明することができました。

 ただし、「牛乳さえ飲まなければカルシウムが増える」とか、「母乳育児を何年続けようとも骨量は絶対に減らない」と言い切ってしまうことはできないのです。海藻や野菜、全粒穀物のように、ミネラルが豊富な食品を必要に応じて摂ること、カルシウムを奪う糖分(白砂糖はもってのほか)を極力避けるなど、ふだんからの気配りが欠かせないと思うからです。そうした積み重ねなく、ただ表面上の言葉だけを鵜呑みにされてしまってはたいへんです。こうした情報を伝える時には、「あれは神話ですよ」という一言で済ませることはできず、むしろ「では実話はどうであるのか」に重点を置いて説明する必要があると、つくづく感じています。